あなたの優しさ見ないふり














「ねぇ、これ何て名前なの?」

ふわりとした黄色い卵を箸でぶっ刺し、シェリルはそのまま口に運んだ。

「卵焼き。」

ちらりと視線を遣したアルトは淡々と自分で作った料理を片して行く。

「何よ、それ。そのまんまじゃない。」

「知るかよ。俺がつけたわけじゃない。」

それもそうだと合点がいって、シェリルの興味はこの話題から失われた。

「こっちのやつは?」

ジャガイモを口へと放り込みながら、シェリルはアルトへとグラスを差し出した。

「それは肉じゃが。」

差し出されたアルトはシェリルのグラスに静かにシャンパンを注いだ。

自分でやれよ。と思ったが、口には出さなかった。

もうこの議論は終わっている。「アルトのくせに!」いつもの台詞が耳に残る。

「あまり飲みすぎるんじゃないぞ。」

この間みたいになるぞ。と笑ってやると、「同じ轍は二度踏まないわ。」と

からかったつもりが胸を張られた。

「私を誰だと思っているの。シェリルなのよ!」

ぐいっとグラスをあおったシェリルが言い切った。

「もう1本。もう1本飲むわよ、アルト。さっさと持ってきなさい!」

「自分で行けよ!」

「あなたは私のド・レ・イなのよ。」

ぱちっウインクしてみせるシェリルに諦めて席を立った。悪態をつくことだけは忘れずに。

 

新たなボトルを抱えて戻ると、シェリルはぼんやり机に頬杖をついていた。

外を眺めるシェリルの横顔を見る。

そこにはいつもの自信に満ちたシェリル・ノームの瞳はなかった。

かといっていつぞやのような全てを諦めた瞳でもない。

彼女が何を考えているのか、アルトにはわからなかった。

ただ何となく、シェリルはわかっているんだな。と感じた。

何が。なのかは自分でも明確な言葉に出来ないけれど、

それでも彼女がわかっている。ことだけはわかった。


-----貴方は根っからの役者なんです。


兄弟子の言葉が頭に響く。


-----その陳腐な役に酔っているだけ

そこまで思い出して頭を振った。

 

二人は、二人でここにいる。

それが今のアルトで、シェリルの在り方。

 

「遅いわよ、アルト。」

気付いたシェリルがグラスを差し出し、はやくはやくと催促をする。

「なら自分で行けよ!」

どんっとボトルを机に置くと、「だってあなたは私の奴隷なのよ。」と

シェリルの瞳がアルトを捉える。

 

「銀河の妖精を待たせるんじゃないわよ。」



 

いつもの通り自信満々に笑うシェリルが何を考えているのか、今もアルトにはわからない。










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(窒息して落ちていけ。)



11/4/2008