HOLIC









子犬とかハムスターとかうさぎとか。
ふわふわとしてめまぐるしくて、あったかくて。
それでいてきょとんとした目でこちらを見上げてくるものだから、もうどうしていいのかわからなくなる。
力の限り抱きしめてやりたい気もするが、加減を違えると壊れてしまいそうでそっとしか触れられない。
それだというのに向こうときたら、まるでこれだけのぬくもりでは足りないとでもいうように、

すりすりと無邪気に擦り寄ってくる。(こちらの配慮を知りもしないで。)
やわらかな拒絶を物ともせずに、とろとろとした蜜の様な甘さを与え、そして気まぐれに離れていってしまう。
 
(それが寂しい、なんて。)
 
言えやしないな。と目を伏せると、「どうしたの?」とひょっこり翠の瞳に覗き込まれた。
視界の端にふわふわと揺れる茶色の髪を認めながら、自分のそれとは色の異なる長い指が、

伸びすぎた黒い前髪をちょこんと摘み上げてゆくのをされるがままになっていた。
(あぁ、まただ。)
 
「なんでもない。」
 
彼の指に絡む前髪を引き戻すかのように顔を上げると、存外あっさりと手が離れていった。
 
「ほんとに?」
 
そう言ってちょっと小首を傾げる彼の所作は、子犬のそれにとてもよく似ている。
 
「あぁ。」
 
本当だ。とちょっと微笑を浮かべながら答えると、「ふうん。」と曖昧な返事が返される。
 
「それよりもほら、急がないと間に合わないぞ。」
 
急がなきゃならないのはルルーシュの方だろっ。という最もな抗議を、はいはい。とお座なりな態度で流しながら、教科書片手にガタンと席を立った。
 
「次の教室って、どこなの?」
 
遠い?と時計を気にしながら歩き出したスザクの隣に並びながら、あぁ遠いぞ。と告げてやると途端口がへの字に曲がって面白かった。
 
「ならどうしてこんなにのんびりしてたんだよ、ルルーシュ!」
 
慌てて駆け出したスザクを追いかけるまでもなく、いつの間にか掴まれていた手が強引に足を進ませる。
二人重なった部分からじわりと何かが浸食してくる感覚に、捉われてしまったのは腕だけではないのだと、思い知らされ瞳を閉じた。
 

(どうせこの手もすぐに離れてしまうと知っているのに。)
 

 

**********************************************************************************

(あぁどうしてこのぬくもりを手放せない。)(自分を蝕むものだとわかっているのに。)


2007 04 24