「片思いばかりなんです、いつも。」

そう言って思い出したのは、艶やかな漆黒と鮮やかな紫電。

初めはホント、全然馴染んでくれなかったよね。

脳裏に蘇った鋭い視線に、名を呼ぶ声まで聞こえた気がして、思わずくすりと漏れた笑み。

隣りに座る人物が不思議そうな顔をしたけれど、なんでもないよと笑い返すと、

彼女はまたにゃんにゃんと可愛らしい声を上げながら、膝に乗る猫へと視線を戻した。

そのとき見ていた光景は、まるで平和そのもので。               

 

こんな柔らかな昼下がりが、ずっと続けばいいのに。

 

あの時自分はそう願ったのだと、手のひらの赤を眺めながら呆然と悟った。

 
微笑み溢れたあの日々に、
拍手ログ1













「ルルーシュ!」

バンッと、叩きつけるようにして扉を開いた。

勇み足で踏み込んだあばら家の床に、白と黒の細い体躯。

自分に向かって伸ばされた白く小さい手は、自分という存在を全身で求めていて。

そのあまりの純粋さに、ゆらりと視界が揺れた気がした。

大丈夫。大丈夫だから。もう、大丈夫。

そっと、包み込むようにして抱きしめると、あらん限りの力で返された。

彼に似つかわしくないその力に一瞬驚愕はしたけれど、それに見合うよう回した手にぎゅっと力を込める。

(彼はこんなにも弱いのに、どうして。)

そのまま動かなくなったルルーシュの黒い髪に頬を寄せる。

さらさらと艶やかな感触が、火照った肌に心地よい。

(何故、彼が傷つく。)

彼はただ一生懸命で、真っ直ぐで、健気で。

(それのどこがいけない。)

 

このときはまだ世界がこんなにも穢れたものだなんて思いもしなかった。

 

(だから、彼がいつか救われる日が来るのだと信じていた。)

 

 神様なんていないんだ
小説ログ2












「そんな格好の君も悪くないね。」

手で口元を隠し意地の悪い笑みを浮かべたスザクが、コツリとこちらに近づいた。
歩みに合わせ、長い燕尾服の裾がひらひらとと揺れている。

「早く助けろ!」

ぎりっと唇と噛み締めながら睨みつけた。
常ならば隠れているはずの左目も、高ぶるままに吊り上げて。

「あれ?」

言ってスザクが首を傾げる。
しぃっと唇に指を当て、わざとらしく微笑みながら。



「おねだりの仕方は教えたでしょ?」



歌うように囁いた。



 

 悪魔の囁き
日記おまけ1










「失礼します。アフタヌーンティーをお持ちしました。」


カラカラとカートを運びながら、いつも通りにこやかな笑顔を浮かべたスザクがやってきた。

「あぁ。」
読みかけの本をぱたりと閉じて机上に放り出すと、鮮やかな手付きでセットが整えられてゆく。
こぽぽぽぽ。温かな湯気と芳醇な香りが肺を満たす。

「アールグレイか。」
手渡されたカップにすっと唇を寄せると、「流石ですね。」と碧の双眸が柔らかく細められた。

「今日のおやつはガトーショコラをご用意いたしました。」

音らしい音を立てることなく整えられたスイーツに、引き寄せられるように手を伸ばす。

「・・・・・・美味い。」

無表情に与えられた言葉でもスザクにとっては十分だった。

「ありがとうございます。」
嬉しそうにふわりと微笑み、軽く頭を下げる。

茶色の髪がふわふわと揺れるのを視界の端に入れながら、黙々と咀嚼を続ける。
そういえば。とルルーシュが皿から顔を上げると、「はい?」とスザクは起立したまま首をかしげた。


「今日の夕方アスプルンド伯爵が来るそうだ。」

「え。」

見事に表情を固めたスザクを無視して再びデザートに取り掛かる。
ケーキと添えられたクリームのバランスが絶妙で、ルルーシュは一人心の中で唸った。

「坊ちゃん。」

動き出したスザクが歩を進め隣に立った。

そうしてトンと白手袋をはめた手を机について、覗き込むように腰を屈める。

「そういうことはもっと早く教えておいてくださいね?」

にこりと微笑むスザクに対し、小さな主は口角を吊り上げ傲慢に微笑った。

「ランペルージの名に見合うもてなしをな。」

言ってフォークを置いた手で先ほど閉じた本を引き寄せる。
皿はいつの間にか空になっていた。

ぺらりと読書を再開した主の隣で、執事はこの後数時間の予定を綿密にたて上げる。

「えぇ、もちろんです。」

微笑むスザクを見ることもなく、ルルーシュはカップへ手を伸ばす。
まるでそう答えるのが当然だとでもいうように、気に留めた様子すらなく。


「あぁ。」


香るアールグレイ。さえずる小鳥。



ランペルージ家は今日も平和だ。






 

 ある日の執事と主と紅茶
日記おまけ2