崩壊のロンド









踏み込んだ広間に鮮血が飛び散った。





赤い絨毯と階段の先には金で飾られた美しい椅子があり、そこには濡れたような黒髪の青年が静かに収まっていた。
コツコツコツと規則正しいリズムを刻みながら一人の男が壇上へ向かう。
ここまで共に来た仲間は皆この男が斬り捨ててしまった。
軽やかに次々と、迷いの無い切っ先で。
自分はただ立ち尽くした。
入り口に辿り着いたときにはもう呆然と事の為りを見守るより術のない状態だった。



「いやぁ〜ほんと。お久しぶりですねぇ殿下。」


ゆるゆると足を運びながら男が軽く手を振った。
響く声は表情に同じくにこやかで、階下に広がる惨劇には似つかわしくない。
お会いしたかったんですよ〜。と間延びした調子で掛けられた言葉に、青年は満足そうに微笑んだ。


ダンッ。
最後のステップが踏まれた。
 
「ご苦労だったな。」


涼やかな声音でそう労い青年は男を見上げた。


「いいえぇ〜それほどのことでも。」


へらりと笑うその様は、彼がいつも研究所で見せている顔と相違なかった。
いつもの顔にいつもの口調。そこに極端に反する言動にスザクは惑う。
何かが。今の彼は自分の知っている上司とは何かが決定的に違っていた。
 


一縷の希望を見出そうと祈るような気持ちで見つめると、頬杖をついた青年と視線がぶつかる。
蒼白な自分に鮮やかに笑ってみせた青年は、ロイド。と男を呼んだ。


「はぁ〜い。」
「お前は誰の命に従う。」

問われた男は眼鏡の奥に隠れた瞳に強い光を宿して青年を見つめ返す。


「それはもちろん!」


青年を覗き込むようにして言葉を切った。



「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下でぇ〜す!」


弾むようなその口調とは裏腹に、真摯な表情を浮かべながら。






「ご命令を。」



 
やけにはっきり響く男の言葉に、かちりと歯車の合わさる音が聞こえた気がする。
絶望に全てを止めたスザクの瞳に蠱惑的に笑うルルーシュの姿が映り込む。
 





「我が剣となり盾となれ。」


跪いて頭を垂れよ。





流れるように彼は言う。
それを受け小さく笑んだ男は膝を折る。
そうしてすっと伸ばされた手を取り恭しく口付けた。




Yes, Your Highness.






静寂の中に木霊する。
 




ひゅっと空気を吸い込む音がした。
折角開いた唇も、震えるだけで音にはならない
ゴクリ。渇いた喉が緊張に鳴る。
 
豪奢な椅子に座する青年が緩慢な動きでこちらを向いた。
見上げる自分の姿を認めると輝く紫紺を優しく緩ませ、さぁ。と甘やかな声で宣告する。










「ラストゲームを始めようか。」




















 

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(微笑み二つ さようなら)

2007 08 23