そのままの君でいて。









そう彼は、僕にとっての光なんだ。
 
 
ふと気がつくと視線の先には彼がいた。
そんなことを10年近く続けてきた自分にとって、目の前を通り過ぎるその背中はあまりにも見覚えのあるもので。
 
「渋谷〜!」
迷うことなく声をかけた。
 
「村田?」
くるりと振り向きざまに向けられる視線と返される言葉。
そんなに急いで戻らなくても、僕から声かけたんだからいなくなるわけないだろ。
 
「どうしたんだよ、こんなところで。」
「それはこっちが言いたいね。君こそこんなところで何してるのさ?」
 
まぁ聞かなくても、答えはわかってるんだけど。
 
君がわざわざ僕の高校近くのこの広場にまで足を運ぶなんて、だいたい理由は検討が付く。
彼のお目当ては、きっと。
 
「えっとその・・・っ!」
 
しどろもどろに両手を振り回す姿は何だか必死だ。
 
思わず笑みが漏れてしまったが、それを見咎められでもしたらまた話が妙な方向に向かってしまう。
今日はその前に、どちらにとってかわからないけど、助け舟を出すことにしよう。
 
「噴水、だろ?」
 
いつものように呆れた風に言ってやると、彼の動きはぴたりと止まった。
やれやれと肩を竦めながら彼を見ると、バツの悪そうな表情を浮かべて。
 
なんてわかりやすいんだろう、君は。
 
「ここから向こうに、君の国に、行けると思ったのかい?」
 
だって。と続けて言葉を切った彼は右手で胸元のライオンズブルーを握り込む。
 
「王様、なんだから。」
 
ぎゅっと祈るように込められた力は無意識という名の彼の癖だ。
 
「おれが行かなきゃ。帰らなきゃ。おれの国に。」
 
そっと伏せられた瞳が切なげに歪んだ。
 
 
そんな顔を、して欲しいわけじゃないんだ。
そんな風に、無理して笑わないで欲しいんだ。
僕は君の部下でも先生でも摂政でもない。
ましてや、今このときに、魔王や大賢者だなんて無粋な肩書きも必要ない。
僕はただの、ただの友達なんだよ、渋谷。
君が意地を張る必要なんてどこにもない。毅然としてみせる必要すらないんだ。
 
 
「僕は君を、 魔王陛下 じゃなくて 渋谷有利 って呼ぶよ。だってそれが君自身の名前だもの。
飾りも建前も必要ない。 だって、今ここにいる僕らはただの高校生じゃないか。」
 
 
好きだよって言えなくて、でも好きだよって言いたくて。
 
そんな思いを込めてぎゅっと手を握ったら、一瞬びっくりした顔をしたけれど思いがけず笑顔がもらえて。
 
「大丈夫だよ、渋谷。君には君の事を信じ支えてくれる人がたくさんいるだろう?」
 
今はまだ言葉という形にして君にあげることは出来ないけど、
繋いだ手から少しでもこの気持ちが君に伝わればいいと、そう思ったんだ。










*************************************************
(日の光を受け僕は)

2007 08 30