バイオレンスレッド




黒の騎士団ゼロ番隊隊長紅月カレンは悩んでいた。

常ならば凛とした輝きを放つ瞳を僅かに曇らせ、自身の手に持つ袋をじっと見つめていた。


(どうしよう・・・。渡したい、けど。でも!ご迷惑じゃ・・・)

あぁでもやっぱり!と赤い髪を揺らしながら大きく頭を振るった。
思わずこもった力にかさりと袋が音を立てる。
はっと目を見張ったカレンは大切そうに袋を持ち直した。


(大丈夫。落ち着いて。落ち着くのよ、カレン。ただちょっと差し入れするだけじゃない。)
畳み掛けるように心の中で呟いて。


(女は度胸!)


拳を握って深呼吸。

昂ぶらないよう心を静め、カツンとブーツの踵を鳴らした。



「失礼します。」


決心が鈍る前に。と開きかけの扉に片足を突っ込んだ。
勢い込んで入場したカレンに、ん?と玉城が間抜けた声を上げる。


「どーしたんだぁ?カレン」

ソファーを陣取る玉城の態度に、カレンはきっと目を吊り上げた。

(ここの主はアンタじゃなくてゼロよ!)


激しく蹴ってやりたい衝動に駆られた
が、今はそんなことに時間を割いている場合ではない。
別に。っと、つっけんどんに玉置をあしらい、気を利かせた扇が譲ってくれた指定席へと着席する。


「今は何の話を?」
感謝を込め微笑みながら扇に問うと、あからさまな態度の変化に玉城からは不平の声が聞こえてきた。

ふんっ。と軽く鼻を鳴らしてスルーを決め込む。


「いや、今は特にこれといって何も。」

頬を掻き苦笑を零す扇に、間に座るゼロが同意の色を示した。


「あぁ、そうだな。」


(チャンスっ!)

思わずガッツポーズをとり掛けたカレンの隣では、凝りもしない玉城がまだ声を上げていた。


「うるさい。」

見ることもせず肘鉄を食らわせると、うっ。と呻き声を最後に俯いた。

咽る玉城に扇からは同情の視線が静かに注がれた。


「あの、ゼロ」
何事もなかったかのように微笑んで、カレンは隣のゼロへと向き合った。


「・・・あ?あぁ、なんだ?」

肩を震わせる玉城からゼロの視線を奪い返し、カレンは頬を染め俯いた。

あの。と恥らう姿は愛らしい女の子そのものだが、沈んだ玉城の姿が先ほどの肘鉄を髣髴とさせる。

如何とも彼女を愛でるという気は起こりえなかった。


「これっ!」

意を決したカレンは袋をゼロへと突き出した。

ただ勢いに驚いたのか、それとも肘鉄の衝撃から自身の危機を感じたのか。
びくりと大きく肩を跳ね上げたゼロだが、俯くカレンはそれには気付かず言葉を続ける。


「今日調理実習で作ったんです!それで、あの、よかったら!」

捲し立てるような口調のカレンに、緊張を解いたゼロがその手からそっと袋を受け取った。


「頂こう。」

ほっとカレンが肩を撫で下ろした。

美味しくないかもしれませんけどっ。とカレンが、いや、ありがとう。とゼロが。
ぱっと輝いた顔をしてゼロと話すカレンは、何とか復活した玉城が肘をつかんだ瞬間、勢いよく振り解き今度は綺麗な右ストレートをお見舞いした。
 
(直人、お前の妹は逞しくなったぞ・・・。)
 


またしても振り返りすらぜず嬉しそうに笑うカレンの姿に、扇は一人今は亡き友へと思いを馳せたのだった。
 








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(戦う戦士、恋する乙女)(募るほどに強く気高く)

2007 09 21
2007 11 14改定