始まりの鐘が鳴り響く。
チッと小さく舌を打ち鳴らしたルルーシュは、爆発の発信源を振り返ることもせず施設内に駆け込んだ。
そのルルーシュの行動で我に返った護衛達と案内人も後に続き、はっとしたように扉に手をかけていた男がドアをロックする。
「緊急事態発生!緊急事態発生!総員、第一種戦闘配備!」
アナウンスの声と警報音が館内に響き渡る。
(戦闘配備と言っても、こんな場所でどうやって。)
市街地から遠く離れたこの施設は、軍が管理しているとはいえただの飛行場だ。
テロリスト達の目を欺くため、そしてルルーシュ本人が公に顔を公表することを嫌ったため、あえて郊外のこの場所を選んだというのに。
(情報が漏洩していたか。)
管理体制を見直す必要があるな。と半ば他人事のように事態を分析していたルルーシュだが、狙われているのは確実に自分だ。
先ほどの爆音、近づきつつある巨大な機械音。
察するに、敵はナイトメアに騎乗しているようだ。
そうなると、この施設での防衛は不可能である。
ビショップ相手にポーンでは勝ち目がない。
(援軍が間に合うわけもないしな。)
迎えの車とやらが到着する可能性はあるが、ナイトメア相手では逃げおおせるわけもない。
どうやら状況は自分にとって不利なものであるようだ。
「皇子、こちらへ!迎えの車が間もなく到着するはずです!」
奥から出てきた男が大声でルルーシュを急かす。
「いや、そんなもの今さら到着したところで意味ないだろう。相手はナイトメアだぞ。」
さらりと返す自分に相手は言葉に詰まった。
この男にだってわかってはいるのだ。それが打開策にならないことくらい。
「援軍は?」
「既にこちらに向かっているようです。ですが、あと30分は・・・。」
言い辛そうに男が告げる。
30分。この施設が壊滅するのには十分過ぎる時間だ。
(クソッ!こんなところで、終わって堪るか!)
まだ自分は何もしていない。何も出来てはいない。
母と妹のために、何も。すべてはこれからだったはずだ。
「総督補佐に告ぐ。こちらに出て来い。さもなくば」
もう眼前まで迫っていたのであろう。
やけに近い場所から聞こえた音声に続き、遠方からの爆発音と僅かばかりの振動。
出て来なければそのまま殺す。そういうことだろう。
(ならば。)
「援軍を急がせろ。」
きっぱりと響いた主の声に、爆発にざわめいていた周囲が静まり返る。
コツリとルルーシュの足が動き出したことで事態を察した護衛の一人が、慌てて声を上げた。
「で、殿下!それはあまりに危険です!」
その声を皮切りに、矢継ぎ早に抗議の声が飛び交う。
「では、他に方法があるのか。」
無感情を通り越し、面倒くさそうに問うルルーシュの耳に返る言葉は無い。
そのまま静かにドアへと向かい、キーを操作してロックを解除する。
途端開けた世界の明るさに目を細めながら、ルルーシュは背後に閉まるドアの音を聞いた。
「ほう。」
機体を通して、男が感嘆の声を漏らしたのが聞こえてきた。
それは総督補佐が素直に出てきたことに対してのものなのか、ルルーシュの外見に対するものなのか。
どちらとも判断は付けられないが、とりあえず目の前のナイトメアに座する相手は男であるらしいということと、
見える範囲にいる敵の数は3対。それがルルーシュにもたらされた新たな情報であった。
「お前が総督補佐か?」
短く発せられた疑問に、ルルーシュは是と答えた。
(さっきと同じ声。ということは、この男がこの場のリーダーか。)
両の紫の瞳で、中央のナイトメアをねめつける。
顔を見せない相手への僅かばかりの抵抗だ。
「目的は何だ。」
先ほどより些か強くなった風が、ルルーシュの濃紺のマントを翻させる。
はたはたと。真紅の裏地を見せながら、静寂の中にたなびく。
「目的?そんなもの決まっている。」
ガチャリと、重たい音を立てながら銃口が上がってゆく。
「日本復活のため、貴方には死んでいただく。」
交渉の余地なく告げられた言葉にルルーシュの紫水晶の瞳が大きく見開かれた。
カチャリとトリガーにかけられた指が力を増してゆく。
その刹那―。
ぶわりと、ルルーシュの背後から旋風が巻き起こった。
振り仰ぐようにして見た空にスローモーションで映る白。ナイトメア。
ルルーシュにとって、本日二度目のイレギュラーがやってきた。
→
*********************************************************************
(アンノウン)
2007 05 07