手繰り寄せた未来の先に。







ガッ!と凄まじい音を発しながら目の前の機体が後方へと吹っ飛んだ。
いや、正確には吹っ飛ばされた。
突如現れた白いナイトメアの見事なとび蹴りが直撃したのだ。
 
(なっ・・・!?とりあえず味方なのか?)
 
とっさの事に呆けてしまったルルーシュは、爆音を聞きつけ突撃してきた兵士達の声で現実へと引き戻される。
反撃する間も与えず二機目を倒した白い機体は、ルルーシュを守るように構えながら残る三機目と相対していた。

「クソッ!」
ナイトメアにしては俊敏な動きで巨体が走り出した。
ジャッと大きな音を立てながら、白い機体へ一直線。
徐行をつけ高らかに飛んだところへ、それまで何の動きも見せなかった白い機体が大きく腕を振り上げた。

ガッッッ!
金属のぶつかり合う鈍い音が、飛行場に木霊する。
腕を盾にし敵の動きを一瞬鈍らせることに成功した白い機体は、素早い動きで身体をひねりそのまま綺麗な回し蹴りをお見舞いした。
ズズゥゥン・・・・・・・・・。
重たい音を響かせながら、最後の一機が地に沈んだ。
 
 






戦闘後、ルルーシュの周りは即座に武装した兵によって取り囲まれた。
しきりに外傷の有無を確認する護衛を手で追い払いながら、視線は今まさに開かんとしているコックピットへと向けたまま。
周囲の者も得体の知れぬ介入に緊張の色を浮かべながら、白いナイトメアへと神経を澄ませていた。

そんな中、まだ完全に開ききりもしない状態で、がばりと中の人物が身を乗り出してきた。
「ルルーシュ!大丈夫!?」
ルルーシュと同じ年頃のように見えるその青年は、切迫した声で呼びかける。
皇族の名を呼び捨てたことにざわりと周囲が色めきたったのがわかったが、そんなことはルルーシュにとってどうでもよかった。

ルルーシュ。紡ぐその声音こそ違っていたものの、かつて自分は同じリズムで誰かにそう呼ばれていたことがなかったか。


「・・・あ、あぁ。」
一拍遅れ返されたルルーシュの言葉に、青年は不安に揺れていた翡翠の瞳をふっと緩ませた。
けれどそれもほんの束の間、機械の作動すらもどかしいと言わんばかりに、ひらりと機体から身を躍らせた。
ダンッ!と身を屈め着地した彼が身体を起こす動きに合わせ、ふわふわとこげ茶のくせっ毛が揺れている。

「ルルー」

ガチャリ。
最後の音に被せるようにして、重たい銃口が青年へと向けられる。
「止せ!」
即座に兵を一喝したルルーシュは、自ら進み出ることで彼らを下がらせ真っ向から青年を見据えた。



癖のある茶色の髪。翡翠の瞳。まだ幼さの抜け切らない整った顔立ち。それに。



「僕だよ、ルルーシュ。」




耳慣れたリズムが電流のように身体中を駆け巡る。




まさか。そんな。でも、確かに。

「・・・すざ、く?」

「そうだよ、ルルーシュ!」

突然のことに唖然とするルルーシュを余所に、ぱっと表情を輝かせたスザクは一目散にこちらへと駆けて来る。
ルルーシュ!と抱きすくめられ映る視界が眩しかった。
白いパイロットスーツに身を包む彼は、離れていた時の分だけ確かに変わっていたけれど、それでもやはり当然のように彼は彼で彼だった。

ぎゅっとまわされた腕から伝わるぬくもりも、頬に触れる柔らかな髪の感触も、ルルーシュ。と何度も呟くそのリズムも。

彼がここに居ることを物語るには十分すぎる程だった。


「っ、スザク、おまえ・・・っ!」

思わず言葉に詰まるルルーシュに、ふっと腕の力を緩めたスザクは紫電の瞳を見つめて笑った。
周囲の目などまるでないかのように、ぽろぽろと緑の湖面から雫が零れる。


「・・・泣くな。この馬鹿。」


そう返したルルーシュは、さっきスザクがルルーシュにそうしたようにぎゅっと彼を抱きしめた。
嬉しいくせに今にも泣き出してしまいそうなこの厄介な衝動を抑えるのには、それしか方法がないと思ったから。


「会いたかった。」

涙声のスザクの背をぽんぽんと叩いてやると、ほっと肩の力を抜いたのが伝わった。

「俺もだよ、スザク。」
 
 







こうして彼らは再び出会った。
一度は別れた彼らの道が、再び交じり合った瞬間だった。











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(ぬくもりに涙し、微笑みに安堵する)


2007 08 20