指先で撫ぜるように。





「毎日大変そうねぇ、ルルーシュ。」
豊満な体付きの金髪美女が楽しそうに笑った。
 
「ええ、まぁ。」
黒髪痩身の美人が憮然とした面持ちで頷いた。
 
 
 
ここアッシュフォード学園生徒会室に今いるのは二人だけだ。
会長であるミレイ・アッシュフォードと副会長であるルルーシュ・ランペルージ、以上二名。


転校したばかりのルルーシュが副会長なのはたまたまそのポストが空席であったことに所以するが、

生徒会に入ること自体はコーネリア総督からの厳命であった。
 
ただでさえ多くの人と接する学園生活。
その上部活動の大会や遠征で他校の人間とまで接する事態になってしまっては、安全の確保に収集が着かない。
身の安全にはとにかく気を配る事。

は数多く上げられた入学の条件の中でも最重要事項であったため、ルルーシュは大人しくこの判断に従った。
元より部活動をすることは考えてもいなかったので、些かの問題もありはしなかったが。
 
 



あっという間に学園のアイドルね!とミレイが可愛らしくウインクした。
止めてくださいよ。とルルーシュは辟易したように嘆息する。
 
「机には手紙、休み時間には廊下で昼休みには中庭、その上放課後は体育館裏に呼び出しですよ。」
 
身体が休まりません。とげっそりした体のルルーシュに、ミレイからは苦笑が零れた。
 
「家に帰ったら帰ったで仕事もあるんでしょ?ホント大変よねぇ〜皇子様って。」
 
もたれた机に預けるように体を倒す。
その拍子にスカートの裾からしなやかな太ももが顔を出し、リヴァル辺りが見たら卒倒するなと頭の隅で考えながらルルーシュは視線を外した。
 
「まぁそれは自分で決めたことですから。」
凛とした声音にミレイからは相変わらずね。と微笑が漏れた。
 
「でもよく総督がお許しになったわね。学園に通うこと。やっぱりひと悶着あったんでしょ?」
労うように柔らかな声で掛けられた疑問にルルーシュは頷き苦笑する。
 
「幸い、俺にはユーフェミア副総督が見方についてくださったので大分有利に話を進めることが出来ました。

それに、アッシュフォード家と昔から親交があったことがいい後押しになりましたね。」
 
総督は義理堅い人ですから。と肩を竦めるルルーシュに、良かったわ。と微笑み返す。
 
「何か困ったことがあったらえーんりょなくこのミレイ・アッシュフォードに言って頂戴!」
 
どんっと胸と叩いてみせると、では。とロイヤルスマイルを浮かべたルルーシュが書類を差し出してくる。
 
「これ今週末までなので、お早めに。」
「う〜ん!ルルちゃんったら意地悪な切り替えしねっ!」
 
羅列された数字から逃げるように身をかわす。
ガタンと音を鳴らして窓を開けると、門の外に見慣れた車が停まっていた。
 
「あらっ、もう来てるのね。」
「もう、というかずっと来てますよ。」
 
さらさらとペンを滑らせながらルルーシュはつまらなさそうな顔をした。
 
「いい加減にして欲しいんですけどね。どうしても、と言って聞かなくて。」
「皇族ですもの。仕方ないわよ。」
 

本当はこんなところにはいられない人。
 
それがよく分かっているからこそミレイは嗜めるように苦笑した。
家に縛られているのはお互い様だけど、彼の方が余程制約が厳しい。
それでも無事学園生活を送れているのは生来要領のいい性質であることと、家の為と割り切った行動をしていることがその大きな要因なのだろう。
折角初めての学園生活なのに、身分が、立場が、超えられない壁を作る。
 

(だから、自分の前ではありのままでいて欲しい。)
 
ルルーシュを学園に迎えた時ミレイはそう思った。
 
ルルーシュ・ランペルージでも総督補佐でもない、昔馴染みのルルーシュで。
 
 
視線を受けたルルーシュが何ですか。と不思議そうな顔をした。
 
「ルルちゃんがあまりに綺麗なんで見惚れちゃったのよっ。」
 
弾むように誤魔化すと、胡散臭そうに眉間に皺を寄せたまま何も言わず書類へと向きなおした。
それでこそルルーシュ。と思いもするが、相手にもされなかったことが少し悲しくもあるミレイだった。
 
「俺は寮に入るつもりだったんです。それなら登下校の必要はないから護衛も必要ない。」
 
指先でくるくるとペンを躍らせながら珍しく不満を口にする。
ふと見せられたそんな仕種に、ミレイの心は綻んだ。
 
「寮がダメならいっそ一人暮らししちゃえばいいんじゃない?ま、そっちの方が無理な話か。」
 
からからと響くミレイの笑い声に、シュンというドアの音が被さった。
 
 
「いよっ!あれっまだ二人だけかぁ〜。」
 
 
バタバタと駆け込むようにやって来たお調子者の登場で、やんごとなき麗人達の密会は静かに幕を閉じたのだった。
 















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(在りのままに戻れる場所で)(背中向けて待っている)

2007 09 08